- ナガミヒナゲシがなぜ危険と言われているのか?
- アレロパシーとは何か?何が問題なのか?
- ナガミヒナゲシの駆除方法
- 危険外来種って何なのか?
- ナガミヒナゲシ第一人者からのメッセージ
ナガミヒナゲシって知っていますか?ポピーによく似た外来種の花なんですが、数年前から『危険』と言われてしまっています。
4月になると道端に花が増えてくるね~。
そうだねぇ。ほら、ここにポピー生えてるよ。
ん、待った。これポピーじゃなくて、ナガミヒナゲシだよ。
んん??ナガミヒナゲシ??なんか生態性を壊す~って騒がれたやつ?
そうそう。
あれって本当のところはどうなんだろうねぇ?
こんなこともあろうかと、第一人者から話聞いてあるけど聞きます?
マジか。
▼今回の記事作成に、ナガミヒナゲシを専門に研究している藤井 義晴教授からご厚意で情報を提供していただきました▼
ナガミヒナゲシの特徴
ナガミヒナゲシは可憐な淡赤色の花です。ヒナゲシに比べ,子房が細長いのが名前の由来にもなっています。
ケシ科の植物は形が似ていることから、区別がつきにくくなっています。
見分けられる部位は
- 花
- がく片
- 苞葉
- 柱頭の放射線
- 茎につく葉
があります。できるだけ多くの部位を観察して見分けることが重要です。
雑草として各地に広がっている。高さ20~60cmで、ヒナゲシに似ていますが、花はやや小さく淡赤色で、果実(さく果)は細長い形をしています。
不正なケシの見分け方 – 東京都健康安全研究センター
特徴は東京都健康安全研究センターに掲載されていますので、ナガミヒナゲシとポピー(オニゲシ)の比較にご利用ください。
爆発的な繁殖力がある
ナガミヒナゲシは非常に繁殖力が強いです。
強い原因は、種子が多く、一つのさやに1600粒、一株から8万粒~20万粒くらい生産されます。
このブログではナガミヒナゲシのびっしりなタネが見れますよ。
ちょっと熟して茶色くなったのを、開けてみました。
うわ~~こんなにたくさん入ってますよ!
▶ナガミヒナゲシを退治する方法 – そよ風つうしん
交差点でよく見かけるのは、実ができるのがちょうど梅雨どきで、その雨で車のタイヤにくっついて道路沿いに広がっていると推定しています。このような特性が都市の道路沿いに広がっている原因と思われます。
日本では観賞用として栽培されることはあっても、園芸植物種子として販売されていません。
1994年前後に輸入冬作物中に種子が混入していたことから、非意図的な導入と考えられています。1991〜2007年にかけて日本全土に広まったのは、温暖化によって気温が1.4〜1.7℃ほど非生育地よりも高くなったことが要因で、降雨量も発生・生育に大きな影響を及ぼすと考えられています。
小さな実にも発芽能力がある
ナガミヒナゲシは6月に播種します(土に落ちる)が、すぐには発芽しません。10月になると約20%が発芽し、そのまま冬を越します。(寒冷地では枯死します。その要因で北海道ではナガミヒナゲシが少ないようです)
翌年の春の4月にも残りの20%が発芽します。さらに残りの60%は休眠しており、翌々年以降にのんびりと発芽します。
なお、このような特性は雑草の一般的な特性です。春に発芽した種子からは小さな個体しかできませんが、小さな個体からできた小さな実に含まれる種子も発芽能力があります。
また、未熟な実からも後熟という現象で立派に発芽する種子ができます。
種子は0.6mm、一粒が0.13mgとたいへん小さく、道路のすきまのようなところでも発芽し生育できます。
コンクリートの隙間からでも生育する
アルカリ性が特に好きかどうかわかりませんが、コンクリートの隙間でも容易に発芽して生育します。
アルカリ性の土壌にしか生えませんよという記述をしているところもありますが、ナガミヒナゲシはコンクリート以外だったらどんな土でも生えてくるようです。
国立環境研究所にも記述してあります。
ナガミヒナゲシ- 国立環境研究所
ナガミヒナゲシのアレロパシーについて
ナガミヒナゲシは本当にアレロパシーが強いの?
アレロパシーは、ある植物がほかの植物や昆虫や微生物などに、生育促進、阻害を含めた何らかの影響を及ぼす現象を意味します。
アレロパシーは私の専門分野で、その活性を自分達が開発した「プラントボックス法」や、「サンドイッチ法」という方法で検定しましたところ、相対的には強い活性がありました。
ただ、この話が一人あるきして、周辺の植物をアレロパシーでばたばた枯らすように思われているようですが、それほど強い現象ではなく、生育を少し阻害する程度と考えています。
たしかに、ナガミヒナゲシや、他のアレロパシーが強い植物で、周囲に他の植物が少ない現象が見られますが、それは、ほとんどが光の競合によるもので、アレロパシーの寄与はその一部と考えています。
ただ、このような光の競合が強い被覆植物で、アレロパシー活性が強いものは、他の植物の生育を抑制する可能性があると考えています。
ナガミヒナゲシが在来種に及ぼす影響については、今後研究しないわかりませんが、個人的にはそれほど影響がないのではないかと考えています。
また、アレロパシーの強い植物は、セイタカアワダチソウやアスパラガスなどで知られているような、自分自身の成分の蓄積で生育が悪くなり、衰退していく「自家中毒」の現象もみられます。
藤井 義晴教授とのメールより
ナガミヒナゲシが他の生物に及ぼす影響は、アレロパシーではなく、光の競合にあるのか!
ちなみに光の競合とは、日光が当たる箇所を植物同士で遮光してしまい、光合成がうまくできなくなってしまう現象です。
本来、アレロパシーは雑草除去や、土壌改良に使われる単語である
アレロパシーって調べる前までは、良いイメージを持っていなかったのですが、調べてみると自然的な生育だということが分かってきました。
近年、クリーン農業や環境保全型農業といった言葉をよく耳にします。
これは環境問題や農薬使用の規制などから、消費者がもっとも注目している農業のカタチです。
そんな消費者の「無農薬・有機」といった期待に応えるべく、日光種苗では除草剤の軽減となるアレロパシー植物の種を販売しております。
出典:日光種苗(リンク切れになっていたため、引用先がなくなりました)
除草剤を撒いていくと土壌汚染が広がってしまうので、植物が植物を枯らす力を利用している業者もいるようです。
これだとアレロパシーもクリーンなイメージですね!
ナガミヒナゲシの毒性について
基本的に、ケシの仲間は有毒植物です。
では、ナガミヒナゲシはどうかというと、藤井教授からは「食べないようにしてください」との注意をいただきました。
毒性がないと書いてある資料もあるようですが、ナガミヒナゲシには、あへんの成分を含んでいないとされていますが、ケシ科特有のアルカロイドが含まれており、食用にしない方がよいと思います。
葉には、虫や微生物による食害がほとんど見られないことから、これらに対する有毒成分、抵抗性成分を含んでいると考えられます。
ただし、種子は、けしの実と同様、あへんの成分や有毒成分は含まれていないようで、中東地方ではナガミヒナゲシの種子を食用にしたとの食歴もあるようです。
藤井 義晴教授とのメールより
きのこなどもそうですが、植物もどのような毒があるかは見ただけでは分かりません。くれぐれも食べないように!
ナガミヒナゲシの駆除について
「ナガミヒナゲシが気になって仕方ない!」という方もいらっしゃるようなので、駆除の方法についてもめちゃくちゃ調べました。
駆除するべきかどうかの判断基準
駆除するべきかどうか、駆除の方法についても藤井教授から丁寧にご回答をいただきました。
ナガミヒナゲシは、現在のところ、環境省が外来生物法で定めている、駆除対象となる「特定外来生物」にも、また、旧要注意外来生物(いまは、生態系被害防止外来種リスト)にも指定されていませんので、個人で栽培するのは自由です。
ただ、繁殖力が強いため、意図しない場所で繁茂している場合、これを「雑草」とお考えの場合には、駆除されるのがよいと思います。
ご家庭のお庭で、花が美しいからと栽培されていても、その強い繁殖力で周辺に広がり雑草化するので、目的とする場所以外で生育している場合は駆除されるのがよいと思います。
ただ、これをお花として楽しもうと栽培している方に、これを強制的に取り除きなさいと強制するのは行き過ぎだと思います。
藤井 義晴教授とのメールより
ナガミヒナゲシは繁殖力が強いですが、育ててはいけないという植物ではありません。
もし、駆除するべきかで悩んでいる場合は
- 自宅の庭に生えてしまった
- 自分の畑に生えてしまった
- 観光地だから生えると困る
- どうしても気になる
このような方は駆除すると良いと思います。
駆除の方法について
ロゼット状態の駆除
駆除される場合は、最適な時期は、まだ花が咲かない、ロゼットといわれる状態のときです。
こちらのブログにナガミヒナゲシのロゼット状態の画像があります
土がどこから運ばれて来たのか。
ナガミヒナゲシ(ロゼット) – HAYASHI-NO-KO
雑多な種子が混じった野菜畑。
播かれた種子に混じっていたのかも知れない。
ここでナガミヒナゲシの橙色を見たことは無い。
ロゼットは、葉がべったりと地面に張り付いてバラの花のような形の葉が出ているときです。
この時期に抜き取ると、根も簡単に抜きとることができ、種子も撒き散りません。
しかし、ロゼット状態のナガミヒナゲシは区別がつきにくく、素人が見分けるのは難しいです。
実が出てからの駆除
ロゼット状態ではナガミヒナゲシか分からない場合は、花が咲き、実が出来てくると見分けやすくなるので、その時期を狙いましょう。
気をつけていただきたいのは、この時期はすでに種子ができてしまっています。
青い未熟な実の中にある種子も後熟といって、置いておくと発芽力のある種子になることがあります。
この時期に、除草機械や鎌などで刈り取ると、かえって種子をまき散らすことになり、翌年再生してきますので、手で慎重に抜き取るのが最善です。
駆除する際の注意
ナガミヒナゲシを抜き取る場合には、軍手や、ゴム手袋などを着用しましょう。
葉や茎を切ったときにアルカロイドを含む黄色い乳液が出てきて、皮膚の弱い方はかぶれたり皮膚炎を起こす可能性があるためです。
このとき、種子をまきちらさないように十分注意してください。
取った種子は、ビニール袋に入れて燃えるごみとしてだし、焼却処分されるのが良いです。
ナガミヒナゲシは危険外来植物?
今回のナガミヒナゲシの駆除騒動は、とある有名な作家さんが自分のツイッターや、Facebookにて自作のチラシを拡散したことが事の始まりです。
それが、鳥取環境大学のFacebookページに拡散されたことが、今回の騒ぎの原因のようです。
今回使われたチラシのような一枚絵には、作成者名や根拠となる情報ソース(出典)が記されていませんでした。
さらに、「危険外来植物」という外来種の区分として存在していない用語を創作して使い、“特定外来生物”指定植物をも上回る影響がある」という拡大解釈と思える文章を書いて恐怖心を煽っていることが問題となりました。
危険外来植物という言葉は定義されていませんので、注意してください。
ナガミヒナゲシは危険外来種?
日本の外からやってきた種類で、日本本来の生態系を破壊したり、人間の活動に大きな影響をもたらす可能性がある生物です。これは先程の危険外来植物とは違い、実際に使われている用語です。
つまりは本来、ここには存在しない種が大きくのさばっているということですね。
ただ、ナガミヒナゲシは駆除対象となる「特定外来生物」、旧要注意外来生物(現:生態系被害防止外来種リスト)には指定されていません。
侵入生物DBには記載されておりますが、過剰に反応しないようにしてください。
ナガミヒナゲシについてのまとめ
それではまとめです。
- よく観察して見分けないと他の花と間違える
- コンクリートの隙間からでも繁殖するくらい数と厳しい環境にも強い
- 実はアレロパシーはほとんどないので、他の生態系に影響は少ない
- 毒性はあるので食べてはいけない
- 毒性があるので、駆除する際は軍手などを使って、優しく抜き取る
- 花として楽しんでいる人がいるので、育てるかどうかは個人の自由
- 危険外来植物という言葉はない
- 危険外来種という言葉はあるが、ナガミヒナゲシは対象ではない
なるほど。意外と知らないことが多かったな。
ナガミヒナゲシとしても一生懸命生きようとしているだけなんだよねぇ…。
人間のエゴだけでは地球は成り立たないからね。
これからは命の一部として見てあげようね。
ご協力いただいた藤井 義晴教授からのメッセージと本
大事なメッセージを頂戴いたしましたので、掲載いたします。
ナガミヒナゲシにかぎらず、このような外来植物が日本の生態系を壊す、日本の在来種を駆逐する、ということを研究の裏付けもなく発信し、危険外来植物というレッテルを張ることがないようにお願いいたします。
ナガミヒナゲシも結局は新しい雑草が入ってきたと考えています。くれぐれも、危険意識を煽ることがないようにお願いいたします。
藤井 義晴教授とのメールより
ナガミヒナゲシも私たち同様、この地球に生きる生物の一つです。
正しい知識を持ち、理解をした上での行動をよろしくお願いいたします。
最後に藤井 義晴教授の本を載せておきます。
植物とアレロパシーについて本当に詳しい方で、今回ご協力いただいたのは本当にありがたかったです!
藤井 義晴教授、関係者の皆様、ありがとうございました。
植物や、薬、栄養学にとても詳しい方です。興味があったらぜひご覧ください。
- その他の参考にした情報(クリックして詳細を表示する)